指示は明確に!
朝、5時半すぎ。静かである。
作業者も社員も誰もいない現場。
目の前には、言葉に表せないほどの、きれいな湖が広がっていた。
歯をみがきながら、少しの間、透き通るエメラルドグリーンの水面をみていた。
地下4階の深さの湖だ。水深は結構りそうだ。
事務所の3階。窓がガラリと開いた、おい! 所長の声。
全員事務所にあつめろ! え?まだ、朝飯食べてないのだが。朝飯の当番は私のはずだし。どうしたのかな?
急いでいる様子だったので、寝室へ10名ほど、社員を起こしに行った。
先輩も寝ぼけ眼で、どうしたんだ? 所長がすぐ来いといってます。何?
他の社員はお互い顔を見合わせた。何かあった。すぐ察知した様子。
相互目で確認し合うと、数分後には、全員事務所に集まっていた。
所長から、
昨日、ポンプの電源切ったのは誰か知ってるか?
「切ったのは私だった」 私が電源きりました!
自信を持って返答した。まだ、湖との関係が分かっていなかった。
電源を切る指示は、1つ上の先輩からだった。
分電盤には、大きくポンプの名札が付いているので、間違っていないはずだが、、、、、、、
・・・・実はポンプには、スイッチを切ってよい電源といけない電源があったのだ。
私が指示されていたのは、切ってよい釜場排水用のポンプの方だった。
もう一つは、24時間止めてはいけない湧水処理をするポンプだった。
私は両方の電源を切っていた。
所長たちの話しの様子から、どうも電源を切ったことが湖ができた原因であることが徐々にわかってきた。
湖ができた経緯が分かった私は、事の顛末をどうして良いか、わからなかった。
不安そうにしていた私に所長が声をかけてくれた。
「いいか、よく見ておくんだぞ」「ここからが肝心!」
・・・・3日後、何もなかったように、以前の現場にもどっていた。
100人以上の作業者が3日間動いてくれた。行動は速かった。もくもくと作業がすすんだ。
「・・・・誰も私を責めなかった。」
全てが終わり、反省会。
・まず、指示は正確に具体的に。
・緊急時、どう対処するかで人間性がわかる。
・人を責めず、行動と仕組みの改善に努力せよ。
・今件を糧とし、他の現場に水平展開・再発防止せよ。
であった。現場の采配とは、こういうものなり。
緊張感のなかの行動。肌で感じた。
入社1年目の秋のことであった。
【岡野和明(現場のプロフェッショナル)】
ゼネコン、住宅メーカーの現場監督から責任者を歴任。住宅メーカー時代は代理店(工務店)の経営・実務指導もおこなっていた、経験豊富なスペシャリスト。現在は現場管理、品質、安全指導のプロフェッショナルとして、工務店からゼネコンなど大小問わず現場を指導。