世の中に通用する技術を身につけよ

 入社して、現場配属になった時の話です。現場は公会堂(地下2階・地上5階)でした。
大空間を作る長いPC梁・鉄骨のアンカーボルトを、地下2階と1階の中間に(浮いたように)セットしたり、新しい技術や知恵の必要な施工内容が満載でした。まだ半人前以下の私もどうしたら施工可能になるか一生懸命考えました。

 夕食の時間は決まって所長の現場での技術話しに花が咲きました。おもしろく時を忘れて聞き入ったものです。気が付けば夜中の1時・2時によくなり、風呂に入る時間も無くなっていました。今思えば楽しい時間であり、いろんな生きた現場技術を学べる時間でもありました。

 そんなある日、「お前たち、技術屋はな、世の中に通用する技術を身につけなくてはいけない」という話がありました。会社特有な技術は自社でしか使えない。これも大事。しかし、その原点、広くどこでも使われている技術、基本技術を身につけることで、どんな設計にも対応できる。基本技術を身につけておけば、どんな現場で新しい技術を必要とする現場でも応用が効く。

 この話を聞いたその後、わたくしの人生の座右の銘になっています。今現在も、「世の中に通用する技術を身につけること」を忘れることなく実践してきています。おかげで、安心して施工できます。後輩たちにも自信をもって指導することができています。その積み重ねが、わたくしの財産になっています。

 後に所長に聞きました。あのお話の背景は何ですか。所長は教えてくれました。会社はいつどうなるかわからん。次の会社に行ったとき、自分がどのくらい通用するかは大きな心配でもある。どこに行っても、どこにいても、胸を張って技術屋として生きていくための処方であることを知りました。こうも教えてくれました、「頭の知識・腕につけた技術は誰にもとられないし、盗まれないよ。」

 当時、所長の生きた時代背景を想像しながら、今に通用する銘でもあると思っています。


岡野和明(現場のプロフェッショナル)
ゼネコン、住宅メーカーの現場監督から責任者を歴任。住宅メーカー時代は代理店(工務店)の経営・実務指導もおこなっていた、経験豊富なスペシャリスト。現在は現場管理、品質、安全指導のプロフェッショナルとして、工務店からゼネコンなど大小問わず現場を指導。